「もう一度、普通にダーツが投げられる日は来るのだろうか――」
脳梗塞で入院した直後、頭に浮かんだ最初の言葉です。
正直、命が助かったことへの感謝と同時に、「これまで積み上げてきたものはどうなるんだろう」という不安が押し寄せました。
ダーツは単なる趣味ではなく、生活の一部であり、自分の軸でした。
その軸が一瞬で揺らぐかもしれない現実に、心は追いつきませんでした。
退院したのは1月19日。
ふらつきがまだ残っている状況で、正直なところボードの前に立つこと自体が怖かった。
「投げられなかったらどうしよう」
「感覚が戻っていなかったらどう受け止めよう」
そんな不安ばかりが頭をぐるぐる回っていました。
実際に投げてみると、最初に出てきた感情は意外にも、安心でした。
思ったより投げられる――。
腕は重く、狙いはズレることもあるけれど、身体の感覚が完全に消えているわけではありませんでした。
「ダーツとして成立している感覚」は、確かにそこにありました。
そして何回かカウントアップをやってみたところ、655点が出ました。
決して高いスコアではありません。
でも、ゼロからやり直すどころか、「自分には戻れる可能性がある」と示してくれる数字でした。
数字として結果が出た瞬間、胸の中に小さな安心の光が灯りました。
脳梗塞後の世界は、少しだけズレています。
視界はぼやけるし、距離感は微妙に狂い、身体の位置と意図が合わないこともあります。
歩くこと、振り返ること、立つこと。
以前なら無意識でできていた動作が、今は一つひとつ確認しながら行うものになりました。
ダーツに必要な感覚も同じです。
距離感、空間認識、腕の動き、指先の微妙な力加減――すべてが、以前と同じようにはいきません。
言うなれば、長年使ってきた定規の目盛りが、突然微妙にずれたような感覚です。
このズレは、技術以上に精神的に堪えます。
「できなくなったわけではない」
でも「できていたはずのことが思うようにできない」――この違和感が、正直つらい・・・。
リハビリはまさに「再構築」でした。
歩行訓練、バランス訓練、体幹トレーニング。
どれもダーツとは直接関係ないように見えます。
でも、ボードの前に立ち、矢を投げるためには必須の作業です。
最初の頃は、リハビリが億劫に感じました。
常に力が入らずふらつく感覚、揺れる視界、続かない集中、脳の疲労。
それでも、心の中で繰り返しました。
「これも全部、ダーツに戻るための準備だ」と。 ※もちろん社会復帰・本業復職が最優先です。あえてダーツにフォーカスしていますw
この考え方があったからこそ、少しずつ前に進めました。
もしこの視点がなければ、あの時点で再スタートする気力は失われていたと思います。
退院後の練習で、感じたのは「再現性の大切さ」です。
以前は身体が自然に覚えていたフォームも、今は一投一投確認しながら投げる必要があります。
腕の高さ、足の位置、肩の向き――わずかなズレが、結果に直結します。
でも、同時に「昨日より少し安定した」瞬間を感じると、これまで以上にうれしくなります。
小さな進歩も、数字や感覚で確認できると希望になります。
カウントアップ655は、まさにその象徴でした。
以前の自分には及ばないスコアでも、今の自分にとっては大きな手応えです。
再スタートにあたって意識したのは、過去の自分との比較をやめることでした。
「以前ならもっと入った」
「フォームももっときれいだった」
こう考えると、すぐに落ち込んでしまいます。
今の基準は「昨日の自分」です。
1日でも安定して立てたら前進。
1本でも狙いに近づいたら前進。
その積み重ねが、未来の感覚を取り戻す鍵になります。
感覚がズレた世界で投げることは、決して楽ではありません。
以前のようにスムーズに投げられないことに焦りもあります。
でも「思ったより投げられた」という安心感は、努力を続けるモチベーションになります。
脳梗塞前の自分と比べれば、まだまだ不完全です。
でも一歩一歩進むことで、少しずつ世界は元に戻りつつあります。
身体も、感覚も、感情も。
そして、ダーツを投げられること自体に喜びを感じられる自分がいます。
今のダーツは、技術よりも「生き方」の延長にあります。
立って投げることがどれほどありがたいか。
矢を狙えることがどれだけ貴重か。
以前は当たり前だと思っていたことが、今は奇跡と感じます。
だからこそ、1投1投の重みが違います。
フォームの修正も、距離感の調整も、すべてが学びです。
失敗しても、スコアが低くても、投げ続けること自体が価値になっています。
もし、病気や怪我でダーツから離れている人がいたら伝えたいです。
- 戻るのは可能です。
- 完璧に戻す必要はありません。
- 思ったより投げられる瞬間が必ずあります。
- 小さな成果が、確実に希望になります。
私自身、カウントアップ655という数字に支えられました。
それは単なるスコアではなく、「自分は戻れる」と実感させてくれる証拠でした。
そして明日も、まだ完全ではない身体で、ボードの前に立っていることでしょう。
ズレた世界での再スタートは続きます。
でも確かに、希望を手にした自分がここにいます。
脳梗塞からダーツに戻ることは、想像していたよりも難しいものとなりそうです。
それでも、思ったより投げられる自分に安心し、少しずつ再構築していく――
これが、今の自分のリアルな日常です。
ダーツは、今も、これからも、私にとって生きる意味の一部であり、希望の象徴です。

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